the counter pop’s blog

ロックバンド ザ・カウンター・ポップのブログです!

70. 「天国 退屈 欲望」 カトレア







 職場で小さな爆発があり
右耳が聞こえなくなった
いや ピィーンとした
耳鳴りは聞こえている


 俺の耳鳴りは 実音♭Bに
かなり近い・・・
なんて思う


・・・そうだ


「お前の耳鳴り何の音?」


・・・今度メンバーに聞いてみよう
トニー谷風でどうだろう・・・


片耳が聞こえないと
目が不自由なのと同じく
体に遠近感を失うようだ
 (一流のスポーツ選手に
  耳の悪い人はいないらしい)
例えば右前方から
近づいてくる台車の
ガラガラと床を滑らす音が
左後方から聞こえて来たり
またはそんなつもりで
体を避けると
実体がそれにともなって
いなかったりと・・・
 それは まるで
調子っぱずれのサラウンドか
あるいはシュールな効果音の
実験映画のようだ 
なんて思う・・・


・・・と言うより
俺は待っていたんだ・・・
 目の前に新しい世界が開けるのを・・・


これは新世界だぜ・・・


 限りなく日常に似た
非日常感だ


・・・日常から眺める
非日常・・・


 非日常が日常を体感する!!


 退屈な日常に
ちょっとしたフックが効いて 
なんだか新鮮で楽しい


 夜勤明けで外に出ると
音もなく冬の気配が
近づいているようで
 俺は背中を丸めて
ポケットのタバコに火をつけた
 右耳は相変わらずで
時折 風が吹くと
右耳の奥に
下手なヨコ笛吹きが現れ
気の抜けた笛の音で
疲労と
労働の後の
軽い充足感を
冷やかしていった・・・


 そして 空には
朝焼けの反対側で
漂白された月が
余命を宣告された
白血病患者のように
行き場を無くしている・・・


・・・遠くで汽笛と貨車を
連結させる音が響いている・・・


そうだ・・・


こんな朝もやの中でも
匿名の鉄道職員が
汗を流している・・・
でもそれは夢の終わりの
イメージと重なって
無意識の中の
出来事のように
まるで表情を持っていない


 俺は 焼酎を切らしていたのを
思い出し
コンビニに向かった
 似非コンビニでなく
コンビニ・・・ 
本物の・・・


 コンビニの
前に着くと
通りに停めた
シルバーの高級車から
降りてくる
見覚えのある姿
を見つけた・・・


ナミコ・・・


そして隣りにいるのは
髭を貯えた中年の男だった・・・




                       つづく




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BY ROCKER’S DELIGHT 11月号より
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