the counter pop’s blog

ロックバンド ザ・カウンター・ポップのブログです!

71. 「天国 退屈 欲望」 ブーゲンビリア









 俺はキーをつけたまま
路上に停めてあった
高級車のバックシートに
乗り込んだ
 そして戻ってきた2人に
見つからないようと
後部シートの足元に
かがみ込んで隠れた
 革シートのワックスが
強烈に臭い
少しむせた
 俺は欺瞞に満ちた
その臭いが嫌いだった


 間もなくして2人が
コンビニ袋を抱え
戻ってきた
 ドアを閉める時に
朝の湿った空気が
固まりになって
車内に爽やかな衝撃を加えた
 ・・・沈黙の後


 「やっぱ戻らない・・・ 
って言ったって じゃあどうする?」


 男の声が少し戸惑って
いるように聞こえる・・・


「・・・マンションに来るか?
 ・・・だけど
 ウチのコ達と一緒だよ・・・
 ・・・自分で集めといて
 言うのも何だが
 お前を彼処に連れていくのは・・・
 ・・・どうも・・・
 ・・・というのも 
 まともな連中じゃないからなぁ・・・
 ・・・つまり 
 あまり関わって
 欲しくないんだよ」


 男はエンジンキーに
手をかける
無言のナミコにかわって
車のキーホルダーが
カチャカチャと音を立てた
 ようやく少しの間があって
男はキーを回した
 エンジンの振動が
伝わってくる
 男は煮え切らない
ナミコの態度に
少し苛立っているようで
走り出した車の運転に
それが表れている


・・・さて 俺はどうしようか


 つい勢いで乗り込んではみたが・・・
このまま隠れている訳にも
いかないだろうし・・・
嫉妬から激昂なぁんて
柄でもない
案外この男もナミコに
振り回されている
だけなのかもしれない・・・
と思うと
少し馬鹿馬鹿しくもなった


 そこで 
プラン①


 車が車庫に入るまで
 このまま隠れている


(但しバックシートの
荷物を下ろす時に
後部ドアを開けられたらどうする?)
 いや 普通開けるよな
コートも置いてあるし・・・


「おい!! アンタ誰だ? そこで何をしてる?」


 後部シートの足元で体を丸めている俺・・・


「・・・」


 後ろから覗き込む ナミコ・・・


「ちょっと何してんのぉ・・・」


 そそくさと車から降りて
頭を掻いて見せる俺・・・


「知ってる奴か? コイツ・・・」


「・・・って言うか 彼氏・・・」


「あっ、どうも はじめまして・・・」


 って俺・・・


 ダメだ 
ダサイ・・・ 
ダサ過ぎだろぅ
いつの間にか俺がコソコソしてるし・・・
 違うだろ ナミコにも
この髭面にも
ガツンとキメるつもりで
乗り込んだんだろうに・・・
 じゃあこれはどうだ


プラン②
 そろそろ2人の前に
 姿を出してみる


(正確には俺が居るのは
後部シートだから
2人の後ろに・・・ 
 あるいはルームミラー越しに・・・
という事になる・・・ が)


「おいナミコ!! コイツは誰だ?」


 粋なり後ろから・・・
がいいだろう(太く声を張って)


「えっ ちょ ちょっと 何してんの?」


 ルームミラー越しにも
髭面が動揺しているのがわかる・・・筈


 硬直した男のアクセルを踏む足に
力が入ったらしく
外の景色が少し早くなる


「知り合いの・・・方?」


 唇の端が小さく震え
引きつっている


「・・・っていうか 彼氏・・・」


「あっ どうも はじめまして・・・」


 って髭面


 ・・・よし 
少なくともこっちだな
 先制必至!! 
先制攻撃が有利なのは
間違いないだろう 
少なくともプラン①よりはね・・・
 ただ この髭面が
如何に喧嘩馴れしていて
俺が凄んで先に飛び出しても


「何だぁ? テメェ? 
誰だ? 
ここで何してる? 
ブッ殺されテェのか?」


・・・なんて逆襲される
事態もあり得る
 よく見ると 
カッコ良くキメたスーツの中の腕も
毎晩「 うまいっしょ 味噌 」を
惨めに啜り
唯一の栄養源としている
俺の腕よりずっと
逞しく見える


「しっ 知り合いの方?」


 これもあくまで俺のプランだ・・・


「・・・・・」


 果たしてこんなに
上手く行くものか・・・
 違う手・・・ 
プラン③を考えなければ・・・


・・・そう 
プラン③を


 そして俺は
右の後ろのポケットに
さしてあった
ボールペンを握り
男の左ソ頸部に一気に
突き立てた
 やっぱり これが手っ取り早い
 そして  それは案外あっさりと
簡単にいった
 男は一瞬何事か
わからない様子でいたが
直ぐその後で
自らの首元に突き刺さった
プラスチックのボールペンを確かめて
グッーともヴゥーとも
分からない
尋常でない声を上げた


 ナミコ・・・


 ナミコはと言えば
助手席で 男の動脈から
吹き出る真っ赤な血を
顔面に浴びて
両手を口に当てたまま
悲鳴すらあげられないでいる
 俺はヒッチコック
映画「サイコ」の中の
丘の上のモーテルの
シャワールームで
女が惨殺される
あの有名なシーンを
思い出していた
但しあれは白黒だったし
刺されたのも
女のほうだったが




 例えば
もしそこで血を
吹き出しているのが
俺だったら・・・


 その時ナミコは賢明に
介抱してくれるのだろうか?
 そして力無く息絶える俺の体に
すがって泣いてくれるだろうか?


 俺は後ろから
男の腕を押さえて
車を路肩に寄せた


 ナミコ 


 ここに居たんだね
向かえに来たよ・・・




                       つづく




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BY ROCKER’S DELIGHT 11月号より
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