休憩中 待機所の机に
置かれた携帯電話から
メールの受信を告げる
シグナルを見つける
携帯電話に限らず
呼出し音が嫌いな俺にとって
メールというのは
なんて便利な機能なのだろう
・・・だたし打つのは面倒だが
メールから不吉は運ばれて来ない
そんな確信めいたものが
何故かあった
そしてそれは案の定
暫く会っていないバンド系の
ダチからのメールで
「デビュー決定!!
11月27日 1stアルバム発売」
絶対買ってくれよな!
とあった
・・・デビューする
若いミュージシャンにとって
デビューとは一度は必ず
使ってみたい言葉に
違いないだろう
そしてコイツにとっても
この特別な意味を持つ
"デビュー"という言葉は
やはり 待ちつづけた言葉の1つで
ケータイ画面のなかで
誇らしげにキラキラと
輝いて見える
俺は5年前に"デビュー"を果たしていた
それまでの俺にとって
この"デビュー"はやはり重要で
情熱のすべてをこの
"デビュー"に向けて捧げていた
と言ってもいいかもしれない
"すべて"だよ
すべてだ・・・
寝ても覚めてもって事だ
きっと今よりも
もう少し若かったんだろう・・・
ただし物事はやって見ないと
わからない
とはよく言ったもので
実際やってみたら
わからないものが沢山あった
それは自分の中で
その"デビュー"が1つの大きな
到達点(目的地)で
その後の展開について
漠然と楽観視して
しまっていたという事
そして 他にも・・・
レコード会社と
外注プロデューサーの
力関係による軋轢
プロと称するスタッフらの虚無・・・
デビューによって
自由を獲得した筈が
案外不自由だったというのも
事実だった
「前例がない」
「今こういうのが受けてるから・・・」
そんな台詞も聞き飽きた
まずはビジネスか・・・
売れなきゃクズな訳だから
単なる俺の認識が
甘かっただけなのだろうが・・・
・・・恨み言は無しにしよう
ただ向こう側とこちら側
それを本気で
意識しなくなってしまったら
それはそれで問題だろうが・・・
・・・ゴムの焼ける臭いが鼻に付く
空缶に混じって混入物に
火が付いたのだろう・・・
ハッとして気が付く
・・・そして
いつもの休憩の
終わりを告げる
無愛想なベルが鳴る・・・
きっと俺は合図で動く
愛想の良い人形なんだと思う
軽油で動く
馬鹿でかいコンプレッサー
が唸りをあげる
俺は途中まで書いた
メールの返信を閉じた・・・
向かう先には
巨大なピストンが
猛烈な勢いで廻っている
それはまるで今にも
火を噴きそうだ
am 2.30
外は雨・・・
足元までどっぷりと生ぬるい
俺は今日 日常を愛す
小さな歯車の1つになった
つづく
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BY ROCKER’S DELIGHT 10月号より
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