・・・俺はポケットの金を
机の上に広げた・・・
・・・7万と
4千・・・
あとは
小銭・・・
チェックインした
ツインルームの3Fの窓から
ホテルの駐車場が見下ろせる・・・
新たに盗んだ車が
部屋からでも見えるようにと
外灯の下へと停めた
勿論盗んだ車で
チェックインしましたなんて
ホテルに告げることは
出来ないので
徒歩でチェックインを済まし
少し経ってから
近くのコンビニに
停めた車を
そこに移動した
駐車場の入り口に
コートを着た2人組の男が
立っているのが見える
ここからでは
よく見えないが・・・
警察官か?
近くにパトカーが
停まっている様子はない
男のうちの1人が
懐中電灯らしきものを
取り出し点灯させた
・・・入って来るか?
男達が何か話し合いながら
入って来る様子が
その身振りから分かった・・・
・・・駐車場の入り口近く
端の車から順に
ナンバーを 控えてきたメモと
照らし合わせている
1台・・・
2台・・・
・・・何だ?
・・・何が知りたい?
・・・何を探している?
すぐに1つ目の
ブロックが終わった・・・
俺の車は少し離れた
3つ目のブロックの
入り口すぐの所だ
・・・目的は何だ?
ホテルにはあの盗難車が
俺達が持ち込んだものとは
わかっていないだろう・・・
(もしも駐車場の気付かないところに
据え付けられた防犯カメラが
俺達を捕らえているとしたら別だが・・・)
あの車が・・・
(2人が警察官でさらに
探しているのもが
あの盗難車だとして)
もし発見されたとしても
すぐに俺達が
見つかることはないだろう・・・
しかしこのホテルの駐車場に
停めてある以上
あの盗難車の
現在の所有者が
ホテルに潜んでいるのでは?
とは容易に想像が付くに違いない
・・・マズイ
男達が2つ目のブロックを終え
3つ目への通路を越える・・・
シャワーを終えたナミコが
ドライヤーを使い出したようだ・・・
/その音は途切れ途切れで
/恐らく人差し指のところの
スイッチが1つで
押す度に hot・cold・turbo
というふうに
入れ替わるタイプで
髪に当てる前に
左の掌でドライヤーの風が
十分に暖まっているのか
確認しているせいでだろう
俺は意味の無い事と
分かってはいたが 少しパニックになって
黙って座っている事が
耐えられずに
とりあえず机の脇のスタンドを消した
男達が車のところまでやって来た・・・
俺たちの車だ・・・
俺はその一瞬を恐ろしく
長く感じながら
息を殺して見守った・・・
どうなる?
そしてその直ぐ後
男達は何事も無かったように
通り過ぎて行った・・・
思い過ごしか?
俺は肺の中に溜まっていた
息をゆっくりと吐きだした・・・
落ち着け
俺は少しナーバスになっているだけなんだ
昨晩押し入った谷合いの
民家の老夫婦が脳裏をよぎった・・・
殺すつもりはなかったんだ・・・
もちろん金だけ手に入れさえすれば
よかったのだから
でも仕方無かった・・・
騒がれ
しかも顔を見られたんだから・・・
もっともそういう事態を
覚悟はしていたが・・・
2人の死体と散らかった部屋は
綺麗に片づけたし
死んだ2人があたかも
車で外出しているかのように
装ってもおいた
死体が発見され
車も2人が乗って出掛けたのでは
ないという事がわかるまでには
まだ当分時間がかかるだろう
俺はさっきコンビニで買っておいた
ビニール袋からビールを取り出し
テレビのスイッチを入れた
缶を開けるプシュっという音とともに
泡が吹き出し 慌てて口を近づけ
いつもそうしている様に
1口目をノドを鳴らしながら
ゴクリゴクリとその半分くらいを
一気に流し込んだ
一瞬・・・
テレビが俺の名を呼んだ気がした・・・
「・・・自称ミュージシャン
窪田健一(35)を事件の重要参考人として
全国に指名手配しました・・・」
シャワー室から髪を乾かし終えた
ナミコが戻ってくる・・・
俺は手に持っていたビールを
そっと机に置いた・・・
つづく
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by ROCKER’S DELIGHT 新年号
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