79. 「天国 退屈 欲望」 ペニーロイヤル

　昼間　
４件目の強盗に入った・・・
　老夫婦以来２人を殺した
　１人はやはり老婆で
私は一人暮らしが
耐えられないくらい
寂しいから
早く死にたかったのよ
といいながら死んだ
　もう１人は酒屋の
若い店主らしき男で
殺すつもりはなかったが
顔を見られ
頑丈な体つきから
発せられる
高圧的な態度と声に
無性に腹が立ち
ナイフで刺した
　とりわけ刺された後で
急変し殺さないでと
懇願されたのには閉口し
鼻の下を横に
左から右へ
スーっと深く
切りつけてやった・・・
　そこから吹き出す血を　
両手で押さえながら
土間を転げ回ったのが
よかった
・・・そこでは服も調達した
（田舎のラッパー風・・・）


　４件目は昨日の今日だし
殺したり騒がれたり
とにかく誰かと
話しをしたり
取っ組み合ったり
したくなかったので
　はじめに顔を見られないように
変装した上に
家人をトイレに
閉じ込めたので
上手く行った・・・


　これはいい
後はゆっくり
戴けるモノを戴きましょう・・・


・・・はじめからそうすれば
よかったと反省した・・・


　・・・ナミコは車の中で
待っていた
　少しでも誰かに顔を
見られない様にという
配慮からか
助手席側のシートは
一番深く倒してあって
俺の黒のヨットパーカーを
フードまで被って
寝そべった姿勢でいた


　車に戻ると
エアコンが少し臭った
　カセットステレオからは
演歌が流れていて
ナミコが


「こんなの入ってるよ」


といって
チョビ髭に眼鏡で
小脇にダンディーに
ギターを抱えるといった
今どきラテン系でも
お目にかかれない
超クールな
横っ座りのポーズの
”古賀メロディーの真髄”と書かれた
パッケージを見せてくれた
　何故かゴールデンと
書かれた
金の縁取りがしてあって
よかった


　トンネルを抜けると
路肩に雪が積もっていた
　それはもうだいぶ
解けていて
飴色で
　車道から跳ね上げられた泥で
雪と言うより
凍った泥シャーベット
といった風ではあったが・・・


　真冬が近い・・・


　俺は旅の終わりを
予感していた・・・
　俺達はダッシュボードに
置かれた
元の車の持ち主の
備え付けの
少し錆び付いた
空き缶の中に
強盗して集めた金を
貯めておいた


「１７万円あるよ」


とナミコは言った・・・


　ホテルで・・・
　俺の名前が
指名手配されている
というニュースを
ナミコも
隣に座って見ていた
　ニュースでは
被害者または関係者としても
ナミコの名前は
あがらなかった
　今の時点で警察が
ナミコの存在を
把握しているかどうかは
わからない
　俺はナミコを
解放してやる事も
出来た訳だ?


・・・ナミコは?


　俺を放って逃げ出す事も
出来たハズだが・・・


・・・俺はそれならそれで
構わなかったが・・・


　だけど確信もしていた
・・・２人がバラバラになって
・・・ナミコが俺と離れて
何処かで
生きて行くことなんて
もう出来ないという事も・・・

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つづく




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by　ＲＯＣＫＥＲ’Ｓ　ＤＥＬＩＧＨＴ　新年号
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