the counter pop’s blog

ロックバンド ザ・カウンター・ポップのブログです!

85. 「天国 退屈 欲望」 ウスベニアオイ









 玄関の扉を開け中に入ると
足元に
最後にアルバイトに
出掛けた時に
慌てて履き替えた
バスケットシューズ
そのままの形で
脱ぎ捨ててあった
 左足の方は
裏返しにもなっていて
揃えて端へ並べ直す
 見ると 地面に接していた
紐のところが
雨水と泥で黒ずみ
変わった形の
染みを作っていた
 もしこれが
ロールシャッハーテスト
だったとしたら
一体 俺は精神科医
何と答えたのだろうかと
思った・・・
 ナミコが内側に
ファスナーのついた
足首までの
短めのブーツを脱いで
先に部屋へ上がった


「・・・真っ暗だね 」


「・・・電気 ・・・電気 」


・・・そんなに暗くはなかったし
雨戸が閉まっている訳でもなかった
 目黒川側の窓には
灯りはじめた
川沿いの外灯が
曇りガラスに
透けて見えていた
 俺にとっては
バイト空けの夕方には
いつもこんな感じなので
気にならなかったのかもしれない


「カーテンも開けっ放しだね・・・」


 ナミコはテレビの横に
しゃがみ込んで
乙女桔梗を
眺めはじめた・・・


「・・・大丈夫 
 元気だよ 」


「ねぇ電球換えてくれる?」


・・・饐えた様な


 このにおい・・・


 ナミコは?


 気にしている
様子もない・・・


 何なんだ?




 台所に向かい
電球を換える


 何のにおいだ?


「ナミコ?」


「・・・ナミコ? 」


 俺はナミコを呼んだ


・・・交換し
切れた古い電球を持ったままで
隣りの居間に戻った・・・


・・・ナミコは?


 寝室として使っている
その隣りの四畳半の襖が
少しだけ開いているのが
見えた


「ナミコ?」


 返事は無い


 一体如何したというのか・・・


 俺は一歩一歩と四畳半の前まで
進み
ゆっくりと襖を開けた


・・・中は真っ暗で
何も見えない


・・・目がなかなか
慣れなかった


 足元にふわっと当たるものがあった
 たぶん布団だろうか


 しかし酷いにおいだ
・・・俺は堪らなくなって
えずき布団らしき物に
あしを奪われて
倒れ込んだ・・・
 取り敢えず襖を開け
窓を開けよう
 這った姿勢のままで
四畳半と居間の
窓ガラスを開け放った


 くさい くさい
なんて くさい においだ


 窓から顔を出して
深く息を吸う


 部屋の中へ
外の風が入り込み
淀んだ室内の空気を
洗い流してくれる
 俺は居間の窓の下に
寄り掛かり
ゆっくりと息を整えた


 漸くして暗闇の中で
少しずつ目が慣れ
開け放たれた襖の奥の
布団の上にぼんやりとした
どす黒い影があるのを
見つけた


 ナミコ・・・


 それは首にストッキングを巻かれ
目を見開き
不自然なうつ伏せの姿勢で横たわる
ナミコの姿と
その傍らの壁にもたれ
左側頭部のコブを削ぎ落とし
血を流し死んでいる
俺自身の姿だった




                       終わり




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by ROCKER’S DELIGHT 2月号
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