the counter pop’s blog

ロックバンド ザ・カウンター・ポップのブログです!

75. 「天国 退屈 欲望」 シトラス









 店内の壁に
取り付けられた
モニターで
丹沢の山中で
男性の遺体が発見され事が
ニュースになっているのを
知った


・・・首を鋭利なもので
刺された後があることから
殺人事件として
捜査が進められ・・・


・・・ボールペンだよ


・・・刺しっぱなしでも
よかったんだけど
こっちだって見てて
気持ちのイイものじゃあ
ないからね・・・
・・・抜いたんだよ
直ぐに・・・
それが失敗だった・・・
動脈やっちゃったらしく
血がピューピュー
吹き出しちゃって
車の中やら俺のシャツやら
あたり構わず汚しちまった
・・・どうやって血の付いた
服を交換するか悩んだぜぇ
マジで・・・


 何より助手席に乗っていた
ナミコに
全身血の洗礼ってのが
マズかった
 まぁ幾らナミコの
頭が弱いってったって
ショックだろうしねぇ・・・
 目の前でさっきまでの
情事の相手が
(どこまでいってるのかどうか
 知らないが・・・
 後ろからとか
 前からだけとか
 挙げ句に
 別の穴までとかね)
 血をピューピュー吹き出し
生気の失った目に変わってゆくのを
一通り全部目撃しちゃったんだから


・・・俺だって初めてだね
実際のところ・・・
こう 人の目がサーッと・・・
動こうが こう 曇るのね
一瞬のうちに・・・
・・・クぅーっと真ん中に
小さく集まるっていうか
本当にちょっとした
変化なんだけど
あぁー 今 死んだなって
ハッキリ分かるんだよ
目が変わっちゃうのね
輝きを失うってよく言うじゃん
そうそうまぁベタだけど
死んだ魚の目ってホント
よく言ったもんで
そんな感じ!!
あれは忘れられないだろうね・・・


 ナミコはテーブルの上に
運ばれて来た食事に
さっきから全く手を付けようと
していない
 ナミコの為に俺が注文した
目玉焼きハンバーグが
気に入らなかったのか?
・・・いやぁ ナミコはこれだよ
・・・のハズ
・・・これでいいハズだ


「私はコレで充分・・・
この店で別のを頼んじゃ意味無いよ」


 ナミコは得意そうに
何時もそう言っていた
 じゃあ付け合わせのポテトが
マッシュポテトじゃあなくて
フライに変わったのが
気に入らなかったのか?
それとも・・・


 血で汚れた高級車が
パチンコ屋の駐車場に
乗り捨ててあるのが
発見された
・・・とアナウンサーが
続けている
丹沢の事件との関与も
・・・と
 ナミコにももちろん
聞こえているハズであろうが
・・・多分 無関心を
装っている・・・のだろう
 俺の気が小さいせいか
他人といる時の
沈黙が大の苦手で
いつもそんな時
それが耐えられずに
つい饒舌になってしまう
 自分のそんなところは
好きでは無かったが
そのまま沈黙が続いた場合い
今度は相手を無神経と
決めつけて怒りが
込み上げてくる
それはそれで勝手だとも
判ってはいて それでも
やっぱり堪らなくなって
不機嫌なナミコに
声を掛けた


「なぁ 俺 ちゃんとした
仕事に就こうかな・・・
ミュージシャンなんて
ほらっ なぁ?
喰えないし 
二人でやっていくったって
お前にもいろいろ・・・計画?
人生設計みたいなものが
立てられないじゃん?
だからさぁ
・・・例えば そうだなぁ
広告マンなんてどうだ?
オフィスは青山辺りで
スーツでビシィーッと
髪もオシャレに こう
キメちゃってさぁ
どう思う?
・・・いや だめだな
あーいうチャラチャラしたのは向かない
ポリシーに反するね 俺の・・・
って言うか 雇って貰えねぇか?
この年だもんね(笑)
じゃあ レストランとかは?
料理得意だろ?俺っ
厨房入ってさぁ
「シェフ・・・」なぁんて
呼んじゃってさぁ
シェフのおすすめの・・・
とかあるじゃん
外に黒板立てちゃってんの
本場っぽいっていうの?
本格派?気取り?
どういうつもりか
分かんないけど・・・
そういうのでさぁ
・・・もっともっといろいろ
作れるようになって
ナミコにも食べさせてやるよ


・・・それじゃあイタリアン
がいいかなぁ
スペイン料理
悪くないけど・・・」


 時々語尾に
今時のおばさんでも
使わない時代遅れの
半疑問形なんかをはさみつつ
繕った


 ナミコは・・・


「ホント? 
ほんとにいいの?
音楽辞めても・・・
ホントにいいの?
本当に辞めるんだよっ
本当にいいなら
嬉しいけど・・・
・・・結婚するってこと?
でしょ?


・・・じゃあ 
私も働こうかなぁ
二人でバリバリ稼ぐ!!
・・・で 式とかはいいの
集めるような
友達もいないしさぁ
お母さんだけに
見せてあげればいいんだ


それじゃぁ写真だけ
撮ろうよ!!
写真館行ってさぁ・・・


 それから 冷蔵庫だけは
大きいのが欲しいな・・・
野菜室が真ん中でさぁ
・・・」


とか


「何言ってるの?
バンド辞めてどうするの?
・・・じゃあワタシ別れるよ・・・
負担になりたくないんだよねぇ
だいいち 女の為に
簡単に主義を変える
男だったなんて・・・
・・・私ってそんな男と
付き合ってたってワケ?
私が働いて来るよ!!
アンタ1人くらい
ワタシが食べさせてあげる
だからそんなコト言わないで!!
ねぇ!!
辞めるなんて言わないで!!
お願い!!」


・・・なんて そんな風に
返事が返ってくるとも
思わなかったが・・・
でも少しくらいは何か
反応があるかもって
期待もしていた・・・


 それでも 不機嫌な
ナミコ・・・
原因は?
 そうか!
なるほど 
服だ!!
服だよ!! 
絶対に
 いつもは買ってきた服の
紙袋や包装紙までもが
オシャレで
・・・よく知らないが
それだけでも高級そうで・・・
 しかも、女性らしく
オシャレに敏感な
ナミコにとって
ファッションセンターしまむら
セレクションが
少々屈辱だったの
かもしれない・・・
 いや 待てよ・・・
というよりは
安くはあっても
ギャルっぽい普段着で
その上カラフルで可愛くて
案外本人も思ってた以上に
似合っているってことに
気づいて照れてるだけかも・・・


・・・だな 多分
よく見ると ナミコって
藤崎奈々子
にてるっちゃあにてるし・・・
 俺にとってもそれは新鮮で
すごく可愛く見える・・・




 分かってた・・・
本当は 分かってた・・・
逆上して 人を殺した俺に
ナミコが恐怖で
震えてるって事も・・・
 愛だ恋だなんて
二人がもうそんなレヴェルで
話なんて出来ないって
事も・・・


 俺は本題を切り出した・・・



                       つづく




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by ROCKER’S DELIGHT 12月号
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