the counter pop’s blog

ロックバンド ザ・カウンター・ポップのブログです!

76. 「天国 退屈 欲望」 ゴテチャ









 ・・・突然湧き起こった
    嫉妬という感情が
    俺の体を支配し
    コントロールする・・・


    まるで誰かが
    俺という操縦桿を
    握ってしまったかのように・・・


 嫉妬の深さが
対象への愛の質量と
比例すると言えるとは
思わないが・・・


 ・・・時に
その支配された心が
逆に愛を発見し
それを育む・・・




 あの夜 車内で
髭の中年男の鼠蹊部に
ボールペンを突き立てた・・・
・・・そしてそれをゆっくりと
抜いたときの感触は
今でも覚えている・・・
 まず正月の水芸のように
ボールペンの後について
スーっと血が噴き出し
 徐々に勢いを増す
それがスローモーションのように
時間をかけて美しく
フロントガラスや
悲鳴をあげている
ナミコの顔や
服や・・・


 明け方でも
まだ暗い
藍色の世界で・・・
・・・時々すれ違う対向車の
ヘッドライトだけが
それを 鮮やかに
映し出していた




・・・俺はやっぱり
嫉妬に駆られていたんだ
つまりはただ逆上したって訳だ
 そしてその時
ナミコへの想いに
気付いた・・・
或いは錯覚した・・・


 でも確かなこともある
 ナミコが
この惨めでさえなくて
冷たい湖の底まで沈んで
決して浮かび上がれないほどの
憂鬱を抱えた俺を
明るく照らしてくれていた
ということだ


・・・まるで俺の頭上で
金色に輝く太陽のように・・・


 俺は眩しくて
手をかざして
ただそれを見上げる・・・
 そして照らされて
初めて自分の輪郭
というものを見つけたんだ・・・


・・・照らされないと
自分の姿形が
わからないなんて・・・


 まるで俺は
夜の世界の住人で
孤独に満ち欠け
だけを繰り返す
月のようだと思った・・・
 そうだ
ナミコが太陽なら
俺はまるで月だ
 そして2人は
昼の世界と夜の世界に
別々に暮らしていて
出会うのは夕方の少しと
ほんの僅か
明け方の一瞬だけだ・・・
 俺とナミコは
月と太陽のように
別々の世界を回っている・・・
 そして 俺はナミコに
追い付かない
決して・・・
永遠に・・・
 地球が破裂して
 宇宙の仕組みが変わり
人類が滅びるまでは・・・




 俺は切り出した・・・


「ナミコ・・・
 もう東京へは戻らない・・・
 俺はお前を連れて行く
 いいか?


 逃げようなんて考えるなよ
 あの男みたいに
 なりたくはないだろう・・・?

 
 いいな?
 ・・・黙って俺に従うことだ・・・


 ・・・後ろ


 ・・・振り返るな!!
 お前の左後ろ 
 一番奥の窓際の男・・・
 髪を撫でつけて
 眼鏡をかけている
 黒い縁の・・・
 スーツの男
 間もなくアイツが席を立つ
 多分トイレだろう
 ・・・俺が合図したら
 その男に付いて行き
 個室に入ったところで
 声をかけろ


 ・・・金だ・・・
 金を貰ってこい


 金が必要なんだ
 いいな?
 騒がれるやり方はダメだ
 わかるな?


 ・・・つまり・・・
 そういうことだ・・・
 わかったな?


 俺は先に外へ出ている
 ナミコ いいな・・・
 変な真似は無しだ・・・
 わかるか?


 ・・・よ ・・・よし
 奴が席を立った・・・
 ・・・待て もう少し待て・・・


 ・・・
 よし!! 行け!! 
 さぁ 早く!!」



                       つづく




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by ROCKER’S DELIGHT 12月号
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