the counter pop’s blog

ロックバンド ザ・カウンター・ポップのブログです!

67. 「天国 退屈 欲望」





  去年 目黒川 春




 たとえば 今 俺がここで
お前を殴ったら どうする?


「・・・痛い。」


 ・・・どうする? って聞いてんだよ
ナミコ・・・


 ・・・じゃあ その時に
俺の拳がお前の鼻に
思いっきり当たって 
血も出てんの 鼻血・・・ 
ダーッって・・・ したら どうする?


「・・・ティッシュ詰める」


 俺は首を振った・・・ 
まるで会話にならない・・・
コイツには想像力って
ものが無いらしい・・・
いつもの事と少し諦めながらも
もう解ったと手で合図する


 窓の下の片側通行の
狭い路地を挟んで
目黒川から
海風と混じって
濃い空気が入ってくる
小春日和で午後になって
風の吹き出した日の
特有な臭いだ
 ここは都内で山手通りから入って
直ぐの裏通りで
駅までも徒歩数分と割りと近い・・・
しかしその割りには
家賃が安くて気に入っている


 その日 散歩の途中で
見上げた二階の窓に
「空部屋あります」
の看板を見つけ
直接その看板にあった大家を訪ねた
その大家のお婆さんに
俺はすっかり
気に入られてしまったらしく
バイト明けで
暇なせいもあってか
何故か独り暮らしの大家の
居間まで上がり込んで
小一時間ほど話し込んでしまった
終いには出ていった
息子を思いだしたなんて泣かれ 
飯まで御馳走になった・・・
 そんな事情もあって
家賃は破格に安いってわけ・・・
敷金も礼金もなし
・・・ただし建物はとても古く
勿論風呂もないが・・・


 ナミコとは 
この5月で2年になる
 自由が丘にある出入りのスタジオで
若い人気のインディーグループの
追っかけとして
制服で通っていたナミコと
何故か意気投合し
そのままここで暮らし始めた


 ナミコはSEXが好きだ
・・・たぶん


 若いだけあって好奇心も旺盛だ
何でも試そうとするし
何でも言った通りにする


 以前に3ヶ月ほど
暮らした女がいた
その女はあの最中に
声が低くなった
俺はそれに違和感を持った


「・・・イクゥ イグゥ・・・ あぁ」


 普段よりもさらに低くなる
・・・というよりさらに 太くもなる


「あぁ まだ・・・ まだ・・・」


その上 要求が多い


「もっと奥 その裏のザラザラした処を・・・」


「そう ソコっ」


・・・さらに細かい


・・・しかも その声が太い


 結局 その事が日増しに
俺の心の中で
大きな比重へと膨れ上がり
その度に あぁ・・・ 
今日も声が太いなぁ とか
なんとか高い可愛らしい声に
ならないものだろうか・・・
なんて 考えているうちに
俺の方からアパートを出た


 ナミコは そんな事はなかった
声も甲高く 鼻に掛かって甘い
・・・ただし 頭のほうが少し弱いが・・・


 ある朝 目覚めると・・・ 正確には
夜勤明けで 寝たから夕方だが 
 玄関脇の汚れた食器の
溜まったキッチンの脇にメモがあった
それは忘れた頃に何度か
置かれた事もあって
さほど驚きもしなかったが
勿論ナミコからのもので


「・・・しばらく留守にします」


 そうとだけ 書いてあった




                       つづく




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BY ROCKER’S DELIGHT 10月号より
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