80. 「天国 退屈 欲望」 オトメギキョウ

　東名を上った・・・


　老夫婦の軽ワゴン車は
大切に整備されては
いたものの
それでもやっぱり
軽自動車だ
９０㎞/hを超えると
エンジンは
大きく唸りを上げ
ステアリングが
振動しだした


　俺は何を急いで
いるのだろう?
　この先に
俺の場所なんて
無いのに・・・


　昨日ホテルで
１７万円の使い道について
ナミコと話をした
　そこで俺は
南に行く事を提案した
（物理的に言って
　真冬に自動車で
　北を目指すなんていうのは
　無理な話だろうが・・・）
　兎に角あの新しく出来た
巨大な橋を使って
四国に渡りたかった
・・・京都よりも奈良よりも古く
　　　日本、大和朝廷の創生期に迫る!!・・・
　なんてＴＶ番組が
頭の片隅に残っていたせいも
あるかもしれない


　ナミコは?


「私は・・・
　・・・アパート・・・
　アパートに帰ろうよ・・・
　私たちのアパート・・・
　目黒川の・・・」


・・・置いてきたままの花が
気になると言う・・・


・・・乙女桔梗（ききょう）・・・


　株分けした乙女桔梗が
今戻って世話をすれば
春には花を咲かせるから・・・
と言う


　アパートに・・・


　アパートに戻っても・・・


　春まで俺は居ないんだよ・・・


　あそこは
警察の監視下にあるだろう?
間違いなく・・・


　もう・・・


　日常には戻れないんだよ・・・
　２人の生活は消えたんだ・・・
終わったんだよ・・・


　ナミコ・・・


　目黒川沿いの
時々海の匂いのする
小さくて古いアパートでは
もう暮らせないんだよ・・・
　そう　ナミコを説得しよう
と思ったが　やめた・・・
　そんな事は　
ナミコにも十分
わかっているだろうし・・・
　何より
切れたままになっている
台所の電球の替えを
買ってしまった・・・
　アパートに戻って
付け替えねばならない・・・


　カーステレオの
ヴォリュームを上げた・・・
　冬の澄んだ空気と
光の中を
外の景色が
物凄い速さで
通り過ぎてゆく・・・
　パーキングエリアで買った
「ドライブに使えるクラッシック!! ｖｏｌ.２」
がちぐはぐに響く・・・
　ｖｏｌｕｍｅ.１は無かった


　軽自動車は
騒音よけの内装が薄く
タイヤからの振動を
モロに拾ってしまう為に
車内では話す時に
声を上げなければ
ならない程だった
　だからクラシックｖｏｌ.２も
殆ど聞こえなかったが




・・・俺は馬鹿だ・・・


「ケンちゃん　
　言って置くけど
　私、あの人とは
　何でもないんだよ・・・
　ケンちゃんが
　思っているような
　そういうんじゃ無いの・・・
　友達の紹介でさぁ
　デモテープ・・・
　いつか聴かせてくれたでしょ?
　あれ私気に入ってて
　ケンちゃんを
　驚かせようと思って
　内緒であの人に
　聴かせたの
　そうしたら興味あるって
　連絡もらって・・・
　会いに行ったんだよ
　スタジオにね・・・
　あの日急に急ぎの仕事が
　入っちゃったからって
　待っててって言われて
　で、ロビーで待ってたら
　結局　明け方になっちゃって
　悪いから送って行きますよ・・・
　って・・・
　・・・それであの人に車で・・・
　・・・だから・・・
　あの人を・・・」


　馬鹿だ・・・


　やっぱり俺は馬鹿だ・・・
　本当に大馬鹿だ・・・
　馬鹿と気づくのに
３５年もかかったし・・・


　もしも　本当に
日常が天国だと言うなら
俺は天国へは行けないだろう
　もう戻れないんだ・・・
　そして
　それでも何故だろう?
　血が騒ぐ・・・
　俺の血が燃えているんだ
　こうして耳を澄ますと
心臓の鼓動が聞こえてくるんだよ
　ドクッ
　ドクッ
　ドクッ　っと


・・・アクセルに乗せた
右足に力が入る・・・


目黒川、
アパート、
共同トイレ、
風呂無し。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つづく




　追伸
　ホリエモン様
　彼らと彼らを支持する連中を見ていると
　俺は何かを思い出す
　｢オーム｣？
　カルトっぽいよね
　そう、でもって麻原とサティアン
　なんていうのにね
　なんだか　子供じみてて
　教義を金に置き換えてみると
　どうですか？
　俺だけか？
　もう観念しなさい！
　さようなら



　
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by　ＲＯＣＫＥＲ’Ｓ　ＤＥＬＩＧＨＴ　１月号
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