the counter pop’s blog

ロックバンド ザ・カウンター・ポップのブログです!

82. 「天国 退屈 欲望」 スレイン









 目黒川を挟んで
桜の木の陰に
男が2人・・・
コートを着込んで 
・・・刑事か?
 いや 
俺の考えすぎか・・・
解り易過ぎであれじゃまるで
コントの刑事だな・・・


 俺とナミコは
警察を警戒して
車のままアパートの
近所を廻った
 アパートを挟んで
山手通り側の路上には
やはり刑事らしき
2人組の乗った
セダンが止められている
 そしてもう少し東に
もう1台・・・
 あの位置からでは
玄関が丸見えだ
 あれでは玄関からの帰宅は
無理だ
 たとえ刑事のスキを見て
室内に入ることが
出来たとしても
川沿いの窓側にもやはり
監視が付いていて
電気を付けることすら
出来ないだろう


 男をたった1人
殺したという
容疑だけの理由で
優秀な大の大人達が
揃いも揃って
国家の税金でも
この冴えない
ミュージシャン崩れの
古びたアパートを
監視している


 なんというナンセンス・・・


 今ここで 
俺が彼らの前に飛び出せば
少しは国家貢献
出来るかもと思った
 もしも本当に優秀な刑事で
俺という人間と状況を
スマートに察してくれて
余計な会話も同情も無しに
それこそ無機的で
オートマチックに
俺を扱ってくれたのなら
或いは俺にも自首という
選択肢が
あったかもしれない・・・


 しかしどうだ?


 実際には愚鈍で
デリカシーの無い
人の形をした刑事という役割の
動く肉の塊と
幾度にも幾度も
関わらなくてはならない
 そしてその有機体が
俺の前に次から次へと
現れて
在り来たりな方法で
俺を脅し
屈服させようと
するだろう


 要は人なのだ


 世の中から
全ての無知が無くなれば・・・
きっと世界はもっと平和に
なるだろう
 だけど平和は永遠に
訪れない
 そして俺の様な男の前に
"優秀"な男が座ることは
決してない


 俺達はもう一度状況を把握し
立て直す為に
車を出した


 コンビニで買った
板チョコの包みを破く・・・
・・・チョコの包みは
何故いつでも
銀色なのだろうか?
 そして板チョコを囓らずに
予め銀色の包みの中で
割って置いたものの
ひと欠片を
口の中に放り込んだ
 苦味には欠けるものの
日本製のものは美味い
 唾液に触れた途端に
口の中にサーッと
一瞬で溶けだし
舌を甘く濃厚な膜で
包み込む
それでいて後味が
しつこくない
 ナミコが手を伸ばして来て
そのひと欠片を摘んだ
 そして俺に小さく
同意の微笑みを見せて
一端それを彼女の唇の先に
挟んでから
前歯で砕いてみせた


 ナミコ・・・ 


 何としてでも戻ろう
あのアパートに


 それにしても東京は
相変わらず車が多い・・・



                       つづく




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by ROCKER’S DELIGHT 2月号
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