the counter pop’s blog

ロックバンド ザ・カウンター・ポップのブログです!

53. 「蒲田青春狂騒曲 其の3」


jun.25 pm6:15

pm6:15
蒲田駅前ロータリー ベンチ
約束の時間から 15分過ぎ
この季節 日が長くなるのが
目に見えるように早い
ベンチの足元をようやく深緑色にかわった
桜の影が揺れている
入梅前だと言うのにやけに蒸し暑い


Theme Song 「青春の挫折」 / The counter pop
 http://www.mucom.net/thecounterpop/sound2/seisyunnozasetu.ram
           ※試聴はすべてreal player が必要です


「ゴメン KENZIE 待った?」
濃いブルーのピッタリとしたTシャツに
グレーのパンツ 
白いヘビ皮のローカットブーツ


「おせぇよ タカシ!!」


「いや 出しなにオフクロに配達頼まれちゃってさぁ
チャリンコじゃねぇって言ってんのに
ビール1ケース自治会館まで担いぢゃったよ
ジジイが大勢でもう酔っぱらってやがんの
テメエで買いに来いってんだよ まったくぅ」


「ねぇ? ハラ減んない? ハラ・・・ 
ハラ減ってんでしょ? ねぇKENZIE?」


「なんだよ その目はぁ!! えぇ? 
わかったよ 奢ればいいんだろ!!」


「そうこなくっちゃ!!」


「ったく なんで 待たされた俺の方が奢んだよ」


俺達は ニーハオという 
この辺りじゃ割と有名な中華料理店に入った
ただ入ったのは別館の方で 何故なら
本店はまだ7時前でも
会社帰りのサラリーマンやOL達で
溢れているだろうし
駅から幾らか遠い
住宅地の中の別館は案外知られていないせいか
なぜかいくらかすいている


揚子江の畔に家族8人を残して日本で働いている
気のいい揚さんが俺達を席まで案内してくれた
奥の左のTVの反対側


「ケンジたち 生ビールと餃子 いつもそればかり」


「いいんだよ 揚さん まずはビールよ!! ビール!!
間違っても餃子を先に持ってくんなよ!!」


餃子はこの店の人気メニューの1つだ
表面はカリッとしていているのに 口の中に入れると 
アツアツの肉汁が溢れてくる
少し小さいのが気に入らないが 何より安い
取り敢えずはビールとザーサイで乾杯ときめる
間もなくして向かいの家族連れの分とあわせて
俺達の山盛りの餃子が運ばれて来るのが見えた


「いやぁー うわぁー」


奇声をあげたのは TVの下を陣取った
派手目のスーツで決めた広告代理店風の男だった
俺は1つ目の餃子をビールで流し込んだ


「ゴキでけぇー ゴキブリぃだよ・・・ 
こんなにびっしり・・・ うわぁー」


店中の視線が集まる・・・


「お客さん これキクラゲあるよ 
こっちはシイタケ 黒いだけよ・・・」
楊さんが困ったような怒ったような顔で必死になだめている


「うわぁ ひぃー」


男の首筋にビッシリと汗・・・
額の血管が脈打っているのがわかる
小刻みに肩をひきつらせる尋常じゃない動き


いきなり顔面に頭突きをくらった揚さんが
家族連れのテーブルまで吹き飛んだ
鼻血が飛び散り テーブルに散らかった
デザートの杏仁豆腐を赤く染めた
子供達が泣き叫んでいる


「揚さん!!」
俺は揚さんへ駆け寄った


振り返ると俺の目に宙を舞う白いヘビ皮の
ローカットブーツの残像が映った
そして束の間 なおも叫き続ける
男のテンプルに蹴りを決めたのはタカシだった


「黙れ テメェ!!」


派手目のスーツの男はレジ前まで吹き飛んだ
男の踵が自動扉にかかり
主のいない無機質な機械音だけが
店中に響いた・・・


俺は爪先で気を失った男の顔を起こした


異常なほど汗で濡れている
「何だ?」


力を奪われ空虚に宙を見つめるだけの
男の瞳孔が輝いているのが見えた
右目にはトルコ石の様な淡いブルーが
浮かんでは消え 浮かんでは消え
壊れた風車のように回っている


「・・・コイツもアウトライフか・・・」
タカシが独りごちた


俺は気がつくといつの間に握っていた
フォーチューンクッキーを指先で潰した


・・・嫌な予感がした
       BAD SIGHN!!


ちくしょう やっぱりだ


「面白れぇじゃん 退屈するよりはマシだぜ・・・」




(おわり)
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BY ROCKER’S DELIGHT 6月号より
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